実を言うと、メイク時代の最後のアルバム(1996年からはオリジナル・メンバーでのリユニオンを機に再びメイクを施しての活動をしている)であるこの「Creatures Of The Night / 暗黒の神話」は、フォーマットがCDに代わった後も長らく手にしていなかったアルバムだった。
何故かといえば、ファンの方ならご存知だと思うが、この"Creatures Of The Night"は、CD化に際して、何故かジャケットがブルース・キューリック加入後の素顔の写真に変更されたばかりか、曲順も変更され、更には軽めのブライトな音にリミックスされていたため、LPレコードを買って聴いていた思い入れのある自分には相当な違和感があって、このアルバムを"Creatures Of The Night"だとは認めたくなかったというのがその理由。
ということで、そのリミックス盤は、このアルバムの特徴であるヘヴィーでダークなサウンドが物の見事に軽くなっており、"I Love It Loud"のドラムの音でいえば、「ドン・ドン・ダン、ドン・ダン」が、「トン・トン・タン、トン・タン」といった感じで、まるで牙を抜かれた獣のような迫力に欠ける音になっていたのだった。ちなみに、この軽めの音にリミックスされたヴァージョンの"I Love It Loud"は1988年にリリースされたベストアルバム"Smashes, Thrashes & Hits"(邦題はグレイテスト・キッス)に収録されている。
リミックスされた背景について言えば、ジャケットに素顔を公開してノーメイクでの活動を示した次作のミリオンセラー・アルバム"Lick It Up"よりも"Creatures Of The Night"の方がアルバムとしての出来は良かったと後にポール自身が語っていたことから、もしかしたら、セールス的に今ひとつだったこのアルバムをもっと多くの人に聴いてもらいたいという思いもあって、アクを削り落としたというか、このアルバムの特徴でもあるダークで陰鬱な印象を取り払ったのかもしれない。
だが、それでも、やっぱり、このオリジナル・ミックスでの再発盤を聴くと、湿り気を帯びたような感じもあるこっちの方がこのアルバムならではの雰囲気があって断然良いなと改めて思うところではある。
なお、ジャケットにはエースの顔があるものの、このアルバムの制作にはエースは関与しておらず、事実上脱退している状況だったが、公表はされず、"I Love It Loud"のミュージックビデオや、その後のテレビ等でのパフォーマンスには参加していた。
キッスのアルバムとしては、どちらかといえば比較的地味な存在として捉えられている印象もあるこの"Creatures Of The Night"だが、個人的には結構好きなアルバムで、重厚でパワフルなドラム・サウンドの所為か、ピーターに代わって加入したエリックの存在感が前作の「Music From The Elder / 魔界大決戦」以上に感じられるのも良いなと思うところ。
又、アルバム全体の印象としては、サウンド・プロダクションをはじめ、何処となくセカンド・アルバムの「Hotter Than Hell / 地獄のさけび」と似た雰囲気があって(ポールよりもジーンがヴォーカルをとる曲の方が多いというのも"Hotter Than Hell"との類似点)、キッスのアルバムの中でも取り分けヘヴィーな部類のアルバムに入るのではないかと感じる。
ただし、"Hotter Than Hell"との最大の違いは、"Hotter Than Hell"はあくまでもハードロックがベースだったのに対し、この"Creatures Of The Night"は、これまでのアルバム以上にヘヴィメタル色が強く感じられるという点で、例えばタイトル・トラックの"Creatures Of The Night"や、"Danger"、"Killer"といった曲などはコーラス・ハーモニーの付け方にもハードロックと言うよりもヘヴィメタルに近い雰囲気があり、恐らくはキッス史上最もメタル寄りのサウンドが展開されているアルバムがこの"Creatures Of The Night"なのではないかと思う。
実は、ソフトな印象がある前作の"Music From The Elder"でもメタルっぽいフレーズが見られる「The Ohth / 炎の誓い」という曲が収録されており、何やら布石みたいなものはあったのだが、実際、タイトル曲の"Creatures Of The Night"はその"The Ohth"を昇華させたような雰囲気がある。
楽曲の充実度という点では、ポールの"Creatures Of The Night"、"Danger"、"I Still Love You"、それに、ジーンの"I Love It Loud"、"Killer"、"War Machine"といった印象的な曲が多く収録されており、なかなかのもの。個人的には、アルバムの中では比較的地味な印象ながらも"Saint And Sinner"と、"Rock And Roll Hell"といったジーンの曲も独特の雰囲気があって結構好きなんだけどね。
そして、過渡期と言われる中でも、アルバムリリース後には初の南米ツアーを敢行。リオ公演には約13万人の観客が詰めかけ、人気の陰りが囁かれる中、改めてバンドの存在感が示されました。なお、ツアーにはエースの後任として"Creatures Of The Night"のアルバム制作にも携わっていたヴィニー・ヴィンセントが向かい入れられ、アンク(エジプト十字)を模したメイクでリード・ギターを務めている。ちなみに、ヴィニー・ヴィンセントのキャラクターは"Ankh Warrior"(古代エジプトの戦士)という設定だった。
ただ、残念なのがこのCDのブックレット。コピー用紙より薄いんじゃないか思えるくらいのペラペラした紙が使われている所為で、プラケースにへばり付いて出し辛いし、シワも付きやすいのだ。それと、規定のフォーマットにワープロで文字を打ち込んだだけのやる気の無い帯(笑)。せめてフォントくらいは気を使って欲しいところ。
TRACKLIST
1. Creatures Of The Night / 2. Saint And Sinner / 3. Keep Me Comin' / 4. Rock And Roll Hell / 5. Danger / 6. I Love It Loud / 7. I Still Love You / 8. Killer / 9. War Machine
1. クリーチャーズ・オブ・ザ・ナイト / 2. セイント・アンド・シナー / 3. キープ・ミー・カミン / 4. ロック・アンド・ロール・ヘル / 5. デインジャー / 6. アイ・ラヴ・イット・ラウド / 7. アイ・スティル・ラヴ・ユー / 8. キラー / 9. ウォー・マシーン
このCDでは邦題が全てカタカナ表記になっているが、オリジナルの日本盤LPでは"Creatures Of The Nigh"が「真夜中の使者」、"Rock And Roll Hell"が「地獄のロックンロール」、"I Love It Loud"が「勇士の叫び」、"I Still Love You"が「遥かなる誓い」との邦題が付けられていた。
NOTES
• Lead Vocals: Paul Stanley (Tracks 1, 3, 5, 7) / Gene Simmons (Tracks 2, 4, 6, 8, 9)
• CD発売日: 2013年3月20日(再発盤)
• SHM-CD
• 解説・歌詞・対訳付
• Album: US 45位 (Gold / 1994-RIAA)、UK 22位
• Singles: "I Love It Loud" US 102位 / "Creatures Of The Night" UK 34位
▼ KISS - Creatures Of The Night
https://www.youtube.com/watch?v=IlGckua_5dg
▼ KISS - I Love It Loud
https://www.youtube.com/watch?v=LMcDg2HwOnM
[Official Audio]
▼ KISS - Rock And Roll Hell
https://www.youtube.com/watch?v=1iZ7jw2wb9E
▼ KISS - Danger
https://www.youtube.com/watch?v=BOkSkuTTkCg
▼ KISS - War Machine
https://www.youtube.com/watch?v=q08kDgsquOc
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