キッス初のコンセプトアルバムとして1981年にリリースされたのがこちらの"Music from The Elder"(LPレコードでリリースされた当時の邦題は「魔界大決戦」)。当時は本国のアメリカよりも先に日本で先行発売されたアルバムでもあったわけだが、アルバム・カヴァーにメンバーの顔が無い初のレコード(ベスト・アルバムの"Double Platinum"を除く)だったこともあり、このジャケットではインパクトに欠けると日本のレコード会社が判断したのか、発売時はジャケット全面を覆うメンバーの写真を使ったカヴァーシートが帯を兼ねる形で付けられていた。なお、当時の日本盤レコードにはインストゥルメンタルの"Escape from the Island"は未収録だった。
実は、これがピーター・クリスに代わって加入したエリック・カーを含むラインナップで初めてリリースされたアルバムでもあったのだが、当時はまさかオーケストラを取り入れたこのようなサウンドが展開されようとは思ってもいないかった。
元々はジーン・シモンズが書いたストーリーを元にした映画を制作して、アルバムはそのサウンドトラックとして出す計画だったようだが、当時の音楽雑誌に載っていたジーンのインタビュー記事には、アルバムが好評なら続編もリリースする用意はあるといった発言もあったことを覚えている。又、そのジーンが、"Odyssey"は本当は自分が歌いたかったと語っていたことも印象的だった(ジーン曰く、プロデューサーに、この曲はポールの声の方が合うと言われたとのこと)。
最終的には映画化の話は消え、アルバムのセールスもビルボードチャートで過去最低の75位と振るわなかったこともあり、ジーンが述べていた続編がリリースされることもなかったのだが、実際に続編に備えた楽曲のストックはあったようで、翌年の1982年にリリースされたベスト・アルバムの"Killers"「キッス・キラーズ」(アメリカ未発売)には新曲として4曲が収録されていた。ただ、これらはけっこう良い曲なので、オリジナルのスタジオ・アルバムには未収録の曲となってしまったのは何とももったいない気はする。
2年間のライヴ活動休止を経てからは、ディスコサウンドを取り入れた「Dynasty / 地獄からの脱出」、ポップサウンドを全面に打ち出した「Unmasked / 仮面の正体」、そしてオーケストラを取り入れたコンセプトアルバムとなったこの「Music from The Elder / 魔界大決戦」と、ますますソフト化が進んできたキッス・サウンドに当時は世間の風当たりも強かった印象があるのだが、個人的にはハードロック一辺倒では無いサウンドをけっこう楽しんでいたのだった。ただ、一方では、ライヴには不向きというか、ライヴでの演奏が難しい楽曲が増えることに対しては多少複雑な思いもあったのだが。
プロデューサーは「Destroyer / 地獄の軍団」を手掛けたボブ・エズリンを再度起用し、約束の時間にスタジオに現れないエース対策なのか、レコーディングにはエースの自宅スタジオも使われているようだが、エース自身は最終的な編集作業にはあまり関わっていなかったようで、後に音楽雑誌に掲載されていたエースのインタビュー記事では、"Odyssey"について、出来上がったレコードを聴いたら、俺が弾いたギターパートがごっそりカットされていて驚いたといったようなことを語っていたのが印象的だった。
アメリカでシングルとしてリリースされたのは"A World Without Heroes"(米56位)の1曲だけだったが、日本ではその"A World Without Heroes"はシングルとしてリリースされず、代わりにファースト・シングルが「I / エルダーの戦士」、そしてセカンド・シングルが「The Oath / 炎の誓い」と、独自のシングルカットがされていた。
そして、下の写真がその当時買った"The Oath"「炎の誓い」のシングル盤。何故、アルバムとは別にこのシングルを買っていたのかというと、冒頭でも触れたように、当時の日本盤アルバムには収録されていなかった"Escape from the Island"「激烈! 大脱走」がB面に収録されていたからなのだ。なお、この曲のソングライターは、エース・フレーリーとエリック・カー、それにプロデューサーのボブ・エズリンという異色の組み合わせ。
当時は、ギターソロが無いのが多少残念ながらも、「I / エルダーの戦士」はきっとライヴの定番曲になるだろうと確信していたのだが、アルバムのリリース後に出演した欧米のテレビ番組等では演奏されていたものの、その後のライヴでは演奏されなかったのがちょっと不思議な気はする。ライヴ向きの曲だと思うし、盛り上がると思うんだけどね。
なお、本アルバムのリリースに伴い、コスチュームが変わり、イメージチェンジも図られている。全員の髪が短くなっており、ジーンはトレードマークとも言えるちょんまげも無くなり、ポールは紫色のバンダナを巻くようになった。又、年々重量感が増していたコスチュームは簡素化され、エースは黒のボディスーツに稲妻のデザインをあしらったシンプルなコスチュームで、エリック・カーはジッパーが多い革ジャンのスタイルとなっている。
個人的には、キッスらしくはないかもしれないが、これもまたキッスの一面だと捉えて聴けば、そう違和感もないし、世間で言われるほど悪くはないアルバムだと思う。実際、自分は、このアルバムが他のキッスのアルバムに比べて聴く頻度が少なかったということもなかったし、アルバムを買った当時も、こういった新たな一面を披露してくれることをけっこう喜んでいた。そういえば、ラブソングが1曲も含まれていない(自分の見解)のも何となくカッコイイなと思ったりもしていたなぁ。
ただ、このアルバム、当時の水準からしても音質があまり良くない印象は当初から持っていた。何となく篭った感じがあるんだよね。
リリースされた当時は、日本盤とアメリカ盤では収録曲の曲順が大きく異なっていたのだが、アルバムがCD化された際は、日本盤もアメリカ盤に沿ったかたちでリリースされていたので、その当時買ったこのCDには多少違和感を感じた。やっぱり"Fanfare"「ファンファーレ」から始まる起承転結のストーリーに沿った日本盤の方がしっくりくるというか、それが正しい姿だと思う。
なお、ひとつのストーリーに沿ったコンセプト・アルバムということもあってか、多くの曲で前後の曲間が繋がっているのだが、日本盤とアメリカ盤では曲順が違うということもあり、この曲間部分の繋がり方も当然ながら微妙な違いがある。
ちなみに、日本盤とアメリカ盤共にアルバムの最後に収録されている「I / エルダーの戦士」のエンディング部分には映画の1シーンを思わせるような台詞と効果音がエピローグのようなかたちで収録されている。
ということで、以前からコンセプト・アルバムを作りたかったと語るジーンの意向が大きく反映されたこの"Music from The Elder"は、そのジーンにとっては意欲的な作品であり自信作でもあったようだが、残念ながらセールスには結びつかなかったこともあり、今では過渡期の異色の作品として捉えられているような印象がある。ただ、今思えば、きっとこの時期にしか出来なかったチャレンジだったようにも思うし、そういった意味ではこうした作品を形として残してくれたことに感謝したいと思う。これもまた、紛れもなく「KISStory」のひとつなのだから。
最後に、DVDの「Kissology / 地獄大全」に収められているジーンとポールのやりとりを
ポール:
レコード会社に曲を聴かせた時、彼らは黙っていたよ。勿論、曲の内容が素晴らしいあまり黙ってしまった訳ではない。
ジーン:
今でもファンから「"The Elder"の曲だけで構成されたコンサートを観たい」といった内容のEメールを貰うよ。「最初から最後まで"The Elder"の曲しか演奏しないツアーをやるべきだ。あのアルバムは名盤だ」という声もあるんだ。
ポール:
だから俺たちはいつも病院の人たちに返事を書いてるのさ。早く元気になってほしいってね。
TRACKLIST
[アメリカ版 / US Edition]
1. The Oath /
2. Fanfare [Instrumental] /
3. Just A Boy /
4. Dark Light /
5. Only You /
6. Under The Rose /
7. A World Without Heroes /
8. Mr. Blackwell /
9. Escape From The Island [Instrumental] /
10. Odyssey /
11. I
[日本版 / Japan Edition]
1. Fanfare [Instrumental] (ファンファーレ) /
2. Just A Boy (少年) /
3. Odyssey (オデッセイ) /
4. Only You (勇者の誕生) /
5. Under The Rose (薔薇の紋章の下) /
6. Dark Light (魔界の閃光) /
7. A World Without Heroes (英雄なき世界) /
8. The Oath (炎の誓い) /
9. Mr. Blackwell (罪深きブラックウェル) /
10. Escape From The Island [Instrumental] (激烈! 大脱走) /
11. I (エルダーの戦士)
NOTES
Lead Vocals:
• Paul Stanley - Just A Boy / Odyssey / The Oath
• Gene Simmons - Only You (Bridge: Paul Stanley) / Under The Rose / A World Without Heroes / Mr. Blackwell
• Ace Frehley - Dark Light
• Gene Simmons & Paul Stanley - I
• 1990年再発日本盤(曲順はアメリカ版仕様)
• 解説・歌詞・対訳付
• CD発売日:1990年12月5日
• 品番:PHCR-2060
KISS - BAND MEMBERS
• Paul Stanley - Guitars, Vocals
• Gene Simmons - Bass, Vocals
• Ace Frehley - Guitars, Vocals
• Eric Carr - Drums, Percussion, Backing Vocals
▼ KISS - I (Solid Gold)
▼ KISS - Odyssey
▼ KISS - A World Without Heroes (Live On Fridays)
▼ KISS - The Oath (franKENstein Remix w/Ace solos)