派手なビジュアルイメージの所為か、デビュー当時は日本での人気とは裏腹に、本国イギリスでは(デビュー当時はメイクをしていたかつてのクイーンがそうであったように)、正当な評価を受けられず、遅れてやってきたグラム・ロックとか、奇をてらったビジュアルだけの素人バンドなどとメディアやプレスには酷評されていたようだ。
それでも、大転換を図った3作目の「Quiet Life / クワイエット・ライフ」からは徐々に評価も高まりつつあったようで、この5作目となる「Tin Drum" / 錻力の太鼓」では、それまで批判的であったメディアやプレスからも絶賛され、彼らの評価は一気に高まることになった。(個人的には初期2枚のアルバムも"Quiet Life"以降のアルバムとはまた違った魅力があって結構好きなんだけどなぁ)
しかしながら、そんな世間の評価や成功とは裏腹に、このアルバムを最後にバンドは解散してしまうのだった。
当時はポップスでもなければロックでもないこの不思議なアルバムを前作や前々作ほど好きになれなくて、何故それほどまでに評価されるのかも分からなかったのだが、大人になるにしたがって徐々にこのアルバムの魅力に気付いていったようなところがあった。ここで見られるアーティスティックな世界観はモダンアートと呼んでも違和感のないものだ。とは今だから言える言葉でもある。
アルバムジャケットや、"Visions of China"、"Canton"、"Catonese Boy"といった曲だけに留まらず、中国をテーマに生み出されたと思われる独特なビート感がアルバム全体を通して漂っており、この不思議な美意識で表現された世界感に嵌まってしまうと、けっこう病み付きになるんだけど、これに続く作品が無いというのがもどかしくもあるところ。
一応、念のため言っておくと、これは日本という名の英国のバンドが中国をテーマに制作したアルバムなので、勿論、彼らが日本と中国を混同して見ているというわけではない(既に何度も来日している)。
ただ、中国をテーマにしているとはいえ、それは親しみや憧れといった対象ではなく、どちらかといえば皮肉的に捉えているような印象もある。ちなみに、過去にはファースト・アルバムに於いて"Communist China"という曲が収録されていたり、まだ東西に分かれていた時代のベルリンや、旧英国植民地のローデシアといった問題を抱えた地域を題材にした曲があったりもした。
それでも、もしかしたら、案外、政治的なものとは関係なく、19世紀後半に日本の美術や工芸が、ヨーロッパの芸術家たちに刺激と影響を与えたジャポニスムのように、ジャパンというか、デヴィッド・シルヴィアンもまた純粋にアートの素材として中国の文化やイメージといったものに触発されたというのが理由だったりするのかもしれない。
まぁ、そういった推測は置いておくとして、それにしても、独自のスタイルを確立した感もあるミックとスティーヴによるリズム隊はこのアルバムの核と言えるほどに強力で素晴らしいなぁとは思うところ。実際、ベースとドラムの音に耳を傾けるだけども、けっこう楽しめるんだよね。
そして"Japan"史上最もコマーシャル性の低いこのアルバムの中にあって、日本で唯一発売されたシングル盤が"The Art of Parties"。ひいき目に見ても売れるような曲ではないので、特段ヒットするということもなかったのだが、自分自身は今も好きな曲のひとつ。実のところ、こういった曲は、多分、自分の趣味ではないと思うんだけど(笑)、何故か不思議と惹かれるんだよね
例によって、シュールな抽象芸術を思わせるような歌詞の意味については、未だ理解に苦しむようなところがあるのが、何故か聴くたびにマティスの「ダンス II」が頭をよぎるんだよね。ただ、当時は、別にこの曲が好きというわけでもなく、どちらかといえば風変わりで奇妙な曲といった印象しかなかったように思うこの曲のシングル盤を、何故にアルバムとは別に買っていたのか、今考えてもよく分からず、この辺りはちょっと不思議に思うところではある(実際LPレコードで買った当時は"Still Life In Mobile Homes"から始まる「Side 2」ばかり聴いていた)。
日本ではデビュー当時のブームも影を潜め、シングルも然ることながら、アルバム自体もあまり話題になることもなかったように記憶しているのだが、逆にデビュー当時は全く注目されなかった本国のイギリスに於いては過去最高の売り上げを記録し、The Art of Parties (48位)、 Visions of China (32位)、 Ghosts (5位)、 Catonese Boy (24位)と、4曲もがシングルカットされた辺りは、イギリス・マーケットというか、イギリス人気質みたいなものが感じられて面白いところだと思う。
p>たとえポップスやロックといった音楽であっても、クリエイティヴ且つアーティスティックな要素が求められるような土壌がイギリスにはあるようで、そういった点では依然としてプロダクション主導のアイドルが幅を利かせる日本よりはマーケットが成熟している印象も無きにしも非ずといったところ。しかしながら、そうは言っても"Ghosts"のような淡々とした起伏の少ない地味な曲が5位にまで上がるヒットになったのは今でもよく分からいところではある。
ちなみに、グループ解散後にリリースされた次作のライヴ・アルバム"Oil on Canvas"は、この"Tin Drum"の12位を上回る5位をUKチャートに於いて記録しており、この"Tin Drum"の収録曲である"Canton"のライヴ・ヴァージョンが"Oil on Canvas"からのシングルとしてリリースされた。
TRACKLIST
1. The Art Of Parties /
2. Talking Drum /
3. Ghosts /
4. Canton /
5. Still Life In Mobile Homes /
6. Visions of China /
7. Sons Of Pioneers /
8. Cantonese Boy
1. ジ・アート・オブ・パーティーズ / 2. トーキング・ドラム / 3. ゴウズツ / 4. カントン / 5. スティル・ライフ・イン・モービル・ホームズ / 6. ヴィジョンズ・オブ・チャイナ / 7. サンズ・オブ・パイオニアーズ / 8. カントニーズ・ボーイ
NOTES
• CD発売日:1999年06月30日(再発盤)
• 解説・歌詞・対訳付
• Album: UK 12位 (Gold)
JAPAN - BAND MEMBERS (Listed on Back Cover)
• David Sylvian (デヴィッド・シルヴィアン) - Keyboards, Keyboard Programming, Tapes, Guitar, Vocals
• Steve Jansen (スティーヴ・ジャンセン) - Drums, Percussion, Electronic and Keyboard Percussion
• Richard Barbieri (リチャード・バルビエリ) - Keyboards, Keyboard Programming, Tapes
• Mick Karn (ミック・カーン) - Fretless Bass, African Flute, Dida
▼ Japan - Visions of China
▼ Japan - Ghosts
[Official Audio]
▼ Japan - Still Life in Mobile Homes
https://www.youtube.com/watch?v=WxGpxt9XpN0
▼ Japan - The Art of Parties
https://www.youtube.com/watch?v=aEuB_rfuM7Q
▼ Japan - Talking Drum
https://www.youtube.com/watch?v=VMnPLCrGZA0
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▶ WORLD CITIZEN - i won't be disappointed (2003) / Ryuichi Sakamoto + David Silvian
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